試験前日に勉強が足りず一夜漬けで試験に臨んだこと経験のある方は意外と多くいらっしゃると思います。 今回は心理学者であるエビングハウスが提唱した忘却曲線と一夜漬けのデメリットについて紹介したいと思います。
まず、記憶とは大まかに「短期記憶」、「中期記憶」、「長期記憶」に区別されます。
「短期記憶」とは耳で聞く言語的情報や目で見る視覚的情報を短期間だけ保持できる記憶のことである。 例えば、「5279120」などのランダムな文字の羅列を見たり聞いたりしたときに次の瞬間は覚えられているが、数分後には忘れてしまっているような記憶です。
「中期記憶」は、完全に知識(長期記憶)として定着する前の段階の記憶です。 つまり、試験前の一夜漬けで得た情報は、この中期記憶に該当します。 情報を何度もリハーサルすることで中期記憶から長期記憶に定着させることができるわけです。
「長期記憶」とは、知識として、ほぼ一生涯保持することのできる記憶のことです。 例えば、漢字の「林檎」の読みと意味などの「意味記憶」、小さいころの思い出である「エピソード記憶」、歩き方や自転車の乗り方など体で覚えている「手続き記憶」に分類されます。
試験の解答に用いられる記憶は、「中期記憶」と「長期記憶」です。 (漢字の読みや英単語のスペルの試験の場合は、試験開始直前に参考書を見ることで短期記憶での解答も可能)
それでは一夜漬けで覚えた記憶はいつまで保持することが可能なのでしょうか?
19世紀に活躍したドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスは、無意味綴り(「りあ、いめ、やか、るこ」など特別に意味を持たない音節) をリハーサルして記憶し、その記憶がいつまで保持できるかを調べました。
つまり、一夜漬けで情報が短期記憶から中期記憶、長期記憶に移されるのですが、 その情報を100%としたときにどれくらい経てばどの程度忘れてしまうかについて調べたわけです。
それを示したのが下のグラフです。これを「エビングハウスの忘却曲線」と呼びます。
20分後には、42%が忘却され58%が保持。
1時間後には、56%が忘却され44%が保持。
翌日には、74%が忘却され26%が保持。
1週間後には、77%が忘却が23%が保持。
1ヶ月後には、79%が忘却が21%が保持。
エビングハウスの記憶実験の場合はまったく無意味な音節で、試験に関しては意味のあることがらなのでもう少し緩やかな曲線を描くと思います。 しかし、基本的には中期記憶は1ヶ月経てば8割近くが忘却されると言ってもよいでしょう。
一夜漬けの場合、翌日には75%が忘れ去られているため試験の結果もよくありませんし 、高校受験のときにはかなりの部分が抜けてしまっているので受験勉強が大変になります。
学習には、集中学習と分散学習があり、一夜漬けの場合は集中学習のほうに該当します。
集中学習とは、その名のとおり集中的に学習することです。平日はあまり勉強せずに、休日一気に6時間連続勉強するのは集中学習です。 集中学習は、「今日はめっちゃ勉強をしたー」というような充実感がありますが、あまり効率的とは言えません。
分散学習とは、少しずつ区切って学習していくことです。例えば、一日1時間の勉強を週に6日行うことを分散学習と分類します 。集中学習と分散学習はともに週に6時間勉強したことになりますが、効率的なのは分散学習と言えます。
とくに暗記物は集中学習よりも分散学習のほうが長期記憶に残りやすくなります。 エビングハウスの忘却曲線では、翌日と1週間後で記憶の保持・忘却に大差は無いように見えますが、忘却して時間の経っていない翌日に覚え治したときのほうが1週間後よりも長期記憶に残りやすくなるのです。
ですから、例えば、中学校で習う1200語の英単語は、まとめて一気に覚えるよりも一日に1語から2語ずつ分散させて覚えるほうが効率的かつ長期間の記憶保持に適していると言えます。
今回は、記憶の分類、エビングハウスの忘却曲線、集中学習と分散学習について紹介し、一夜漬けはあとに残らないということを説明しました。
私は家庭教師以外の仕事で、鍼灸師としてダイエットの指導をすることがあります。 ダイエットも勉強と同じで、太ったと思ってから運動するよりも常日ごろから運動の習慣をつけることが大事です。 普段から運動を習慣化していると、急激に太ってしまう心配もありませんし、夏前にあわてて激しい運動や食事制限をする必要はありません。
勉強もそれと同じで普段から少しずつ勉強をしていると、テスト前に慌てて一夜漬けなんてしなくても良いですし、受験前も余裕ができます。
ですから、一日に30分だけでもいいので机について勉強する習慣をつけることが大切なのです。
(2012.6.8更新)