9月ごろの話です。
ある小学校6年生の保護者の方からのご依頼がありました。
「現在、中学受験を考えています。6年生になって中学受験を考え始めて、夏休みから塾に通い始めました。 一番下のクラスですが、算数の問題が1問も解けない状況で困っており、今のつらい状況からなんとか楽しいと思えるようにしてあげたいです。 ご指導いただけないでしょうか。」
藁をもすがる思いで、ご連絡していただいたのでしょう。 なんとかご期待に答えたいところではありましたが、志望校への合格の可能性はほぼなかったため、お断りの連絡をさせていただきました。
通常であれば、スケジュールにさえ空きがあれば、お断りするにしても面談と体験授業は行うようにしています。 ただ、今回の場合は、状況から察するに合格可能性がまったくないと考えられたため、面談や体験授業は行いませんでした。
この一連のやり取りについて、すごい違和感というか憤りを感じました。夏休みから入塾させた塾にです。
志望校は福岡で屈指の難関校です。6年生の夏休みから一生懸命に勉強したとしても、とても合格できるものではありません。 受験産業に携わる者なら100人中100人がそう判断すると思います。
多くの進学塾は6年生からの入塾は断るでしょう。 塾側からしても滞りなくカリキュラムを進めるためには、授業について来れない子を入塾させるわけにはいかないからです。
また、ご家庭や生徒本人のことを考えても、入塾は断るべきだと思います。
可能性がないのに高い授業料を受け取ることに対する抵抗感はないのだろうか。 もちろん、授業料は合格を保証するものではなく、提供する教育サービスに対する報酬ではあるのですが。
また、子どもに対する心的負担も大きいです。 おそらく小学校の算数は難なく解ける水準だから、中学受験を目指したんだろうと思います。 しかし、中学受験算数は別物です。 実際、一番の下のクラスの算数がまったく解けないという状況、子どもにとって辛いことだと思います。
そういう状況になることは、塾側も容易に想像できたはず。
6年生からの中学受験はほぼ不可能です。子どもに劣等感を植え付けてしまう危険性があります。 しかも、受験に合格して私立中学校に入学しないのであれば、受験算数を一生懸命に勉強したとしても意味がありません。 中学以降の数学を理解するためには、受験算数の知識を如何に捨てることができるかが重要なのです。
こういうことから、仮に保護者の強い希望であったとしても、無理のある依頼は断ったうえで別の選択肢を提案するのが、良心的だと思うのです。